〜黒い坊主〜

父と子は、もう随分長いこと旅をしていた。
山の中にある古びた寺にお参りをするため、もう夕刻ではあったが森の中のけもの道を歩き続け、寺の境内に辿り着いた。
境内の中には水汲み場があって、さらさらと水が湧いている。
父と子はのどが渇いていたためお参りよりも先に水を飲むことにする。父は柄杓で水を飲んだ。子はちょろちょろと水が流れ落ちる木の管から直接水を流し込む。
子は、のどがたいへん渇いていたため、なかなか飲むことをやめることができない。ごくごく、ごくごくとのみ続ける。そのうち、父子が来たのとは反対側のけもの道から、坊主がゆっくり歩いている気配を感じる。父が坊主に気づき、なにか尋ねることでもあるのか、坊主のほうに向かって歩きだす気配を感じる。
子が、ようやく水を飲むことをやめ、顔を上げると、父がいない。
夕刻の日差しが森の木々から少しだけ洩れさしている以外には、生物の気配がない。

これは、東北は奥羽山脈麓の地方に伝わる伝説である。
山道で、体格の大きな坊主が行く手に立ちふさがる。坊主は逆光で顔は見えないが、獣のにおいがする。真っ黒い坊主は、旅人におおいかぶさるように接近すると、その体がまるで異世界への扉ででもあるかのように旅人を闇の中に飲み込んでしまう。

太った高校生が5人集まって、次に上演する演劇の打ち合わせをしている。
次の演目は、この伝説に基づいたものにすることまでは決まっているが、誰が肝心の坊主役をやるかでもめている。
西村は顔が柔和なのでダメ、坂井はニキビが少年ぽいのでNG。やはり、坊主役は寺田に決定だ。寺田、よろしく頼むよ。
寺田はいやらしい笑いを浮かべると、わかったといって西村に覆いかぶさった。寺田の体が、まるで異次元への扉ででもあるかのように、西村が飲み込まれた。


という夢を見た。